02. 沼貫地区支え合いまちづくり「黄色い旗運動」

話を聞いた人:沼貫地区自治振興会 会長 打田哲夫さん

高齢化は全国的な課題ですが、そのなかでも丹波市は、高齢化率が全国平均と比べて15年ほど先を行く数値が出ているとも言われています。医療や介護の人材不足、隣近所との関わりが希薄になる個人化といった現状、また、多くの高齢者が住み慣れた自宅や地域で生活を続けることを望む気持。これらを背景に、地域にできる「支えあい」を模索し、取り組む「沼貫地区自治振興会」の「黄色い旗」活動を紹介します。

地域全体を動かすこの取り組みは、日頃から様々な地域活動を積み重ねてきた自治振興会による住民自治の実践があってはじめて可能となったもの。コロナ禍で進む孤立をも地域力で乗り越えようとする、分厚く、スケールの大きな取り組みをお届けできたらと思います。

毎朝7時に玄関先に旗を出して地域に「元気」を知らせる。地域での連帯感も生まれる取り組み。

丹波市氷上町の沼貫地区は、加古川を中心に左岸国道175号線、右岸剣道109号線沿いに広がる農村地域です。地区の人口は令和3年7月時点で2,488人(1,012世帯)、そのうち65歳以上の比率は約34%に達しています。日本の高齢化率は令和2年10月時点で28.8%、将来的に32%を超えるのが2035年と推計されています。いうまでもなく15年以上も先を行く沼貫地区の高齢化は喫緊の課題です。

内閣府「令和3年版高齢社会白書」より

この現状に対して沼貫地区自治振興会は、まず、地域の課題の可視化をするためのアンケートを実施しました。自治会役員、民生委員、民生協力委員の方々の協力のもと、65歳以上の方に生活の不安や困りごとなどを聞くものです。

アンケートの選択設問などは、社協の方々と相談しながら決めた。回答の選択肢は高齢者の困りごとに寄り添った内容になっている。

アンケート対象者は801人、それに対して7割を超える回収率と多くの方から回答を得ることができました。アンケート実施に向けては、配布・回収に携わる自治会長の方への説明会を行い、自治会役員、民生委員、民生協力委員の方々が直接、アンケート対象者のお宅を訪問して趣旨を説明したうえで手渡しをして、また、回収に際しても直接訪問するというきめ細やかな対応をおこないました。もちろん、回答が難しい方には無理にお願いしないことや、各自治会独自の機会(組長会など)を通じての配布・回収など、関わる方の負担の対する配慮も気にかけた点です。

沼貫地区自治振興会会長の打田さん。つながりプロジェクトでの簡潔で分かりやすい事例紹介は、取り組み自体が検討に検討を重ねたものだからこそ。

アンケートでは、地域の行事や活動にどのくらい参加しているか、また、参加したい・したくないなど意欲や理由、日常生活での困りごと、将来に対しての不安、またそうした悩みを誰に相談しているかについての設問を通して、高齢者の方々の動向を具体的に知ることができました。そのなかで見えてきた課題は、健康づくり、緊急時や災害時の支援体制、家事や外出支援、交流の居場所づくりなど多岐にわたります。

打田さんの資料より。検討事項は多岐にわたる。

見えてきた課題を分析して、どんな形で解決するのかを検討するにあたって「支え合い推進会議」(自治会長・民生員合同会議)を立ち上げて、沼貫地区支えあいまちづくりの取り組みは始まりました。推進会議のメンバーは、自治振興会3名、自治会長9名、民生児童委員7名、丹波市社会福祉協議会氷上支所3名の合計22名。地域の中の人と専門家がタッグを組んでの体制です。

 会議では、アンケート結果を分析することと同時に、「沼貫地区をどんな地域にしていきたいのか」という将来像を皆で共有し、目先の課題だけにとらわれず、将来像に近づけるための取り組みになるものを検討するよう心がけました。コロナ禍で会議の開催が難しい時期もありましたが、自治会長および民生員の方を中心に、時に応じて社協の方々も交えての検討を重ねていきます。

会議には、必要に応じて市の福祉部の方や社協の方に参加してもらい一緒に協議をした。

検討は1年近くかけて行われましたが、その際、課題のひとつになったのが、自治会長など役員の交代です。任期満了で役員や担当者が入れかわると、これまでの取り組みの流れや方針の共有を都度行い、取り決めた内容に賛同し協力してもらうことが不可欠だからです。丁寧にまた根気強くの個々の会議メンバーとの話し合いや、検討会議、意見交換会を経て、生まれたのが「黄色い旗運動」です。

 具体的には、沼貫地区の全ての世帯を対象に、毎朝、近隣から見えやすいところに黄色い旗を掲げて、夕方に片付けるというものです。旗が出ていないときや片付けられていないときは安否確認を行うなどして、隣近所同士でお互いを見守りあいます。もちろん、「旗」という目に見える存在自体が、地域全体に見守り合うという意識を醸成してくことにもつながることを期待しています。

打田さんの資料より。アンケートの課題を紐解いて、具体的な取り組みを何にするのかを決めることがもっとも苦労した点。何も決まらずに散会する会議もあった。

そして今年4月、沼貫地区の自治会のひとつで先行的にテスト実施されることになりました。最初の2週間の実施率(旗の掲出率)は38%でしたが、1ヵ月後には95%まで達しました。実施率の向上には、自治会の役員の方、民生委員の方、ご近所さんたちが、旗を掲げていない家庭を訪問したり声掛けをしたりと、大きな役割を果たしています。

 また、テスト実施では早速、黄色い旗運動の成果効果と改善点も見えてきました。

先行実施した稲畑自治会では黄色い旗が各戸で徐々に根付き、ほとんどの家で掲げられるように。
まずやってみることで、新たな気づきや問題点が見えてくるという取り組みの中で大事にしていた方針のひとつ。

テスト実施の成果効果や改善点の共有を経て、11月からは沼貫地区の全自治会で実施されます。「黄色い旗運動」は、これからトライ&ブラッシュアップを繰り返し、沼貫地区が目指す、10年後・20年後に沼貫地区に住んでいてよかったと思える、元気で、安心安全な地域づくりの一歩となるはずです。

沼貫地区自治振興会
活動拠点:沼貫交流館
(丹波市氷上町佐野555-1)
TEL・FAX 0795-82-4033