05. 「置き薬」の事業形態活かした「御用聞き」訪問サービス
話を聞いた人:竹内薬品株式会社 代表取締役 竹内秀介さん
警察庁の運転免許統計によると、2019年には免許証を自主返納した人の数が制度導入以降最多の60万1,022人(前年比17万9,832人増)になったとされます。同年、75歳以上の運転者の返納が35万428件(同5万8,339件増)で全体の58%を占め、75歳未満も25万594人と前年のほぼ倍に増えました。2020年からはコロナ禍の影響もあり、自主返納の件数は2020年で8%減、2021年で6%減と減少傾向は見られる一方で、高齢者に免許返納を求める動きは根強くあります。
このような背景の中、とりわけ地方在住の高齢者の移動手段や暮らしには、課題が多く見られています。外出手段を持たず、日々の買い物にも困る。配偶者に先立たれ、つい引きこもりがちになる。話し相手がいない。このような課題には、地域の民生委員などを中心とした訪問サポートも役立てられています。
ここでは京都府綾部市で行われている新しい訪問サポートの形「あやべ『御用聞き』生活支援サービス」をご紹介します。
丹波市山南町に本社を構える「竹内薬品株式会社」は、地元丹波市を始め、但馬地域や京都府北部を含め約1万8000軒のお宅に置き薬を届けています。定期的に配置員が自宅を訪問し、薬箱の点検を行う置き薬のサービスは、外出が困難な高齢者宅では特に喜ばれてきました。
そんな竹内薬品株式会社が、京都府綾部市で2021年末より参画した、あやべ「御用聞き」生活支援サービス。配置員が薬箱の点検に訪問した際、日常生活での困りごとを聞き取ります。要望の多いティッシュペーパー・トイレットペーパーなどのかさばる買い物の支援などを行うほか、聞き取った困りごとは「御用聞きセンター」に連絡。市への要望や相談について行政へ声を届け、専門性が必要な支援は「綾部あんしん登録企業」に対応依頼をします。「綾部あんしん登録企業」には生活インフラを始めとした各種企業が登録。いずれもサービスや商品は適正価格で、相談や見積もりは無料、無理な販売をしない企業ばかりなので安心して紹介することができます。
家のお片付けや粗大ごみ運搬、スズメバチの駆除、タイヤ交換や介護相談、スマホ・パソコンの使い方など、地方の高齢者家庭で特に課題になりがちな困りごとを、置き薬を置くだけで相談に乗ってもらえて解決の糸口が提示される、市民にとってうれしいサービスです。
このサービスは「あやべMBTプロジェクト」の一環として行われています。MBTとは医学を基礎とするまちづくり(Medicine-Based Town)の略称で、奈良県立医科大学が提唱しています。スマートウォッチを始めとする最新機器やセンサーなどを利用して市民(特に高齢者)の健康を見守る、医学に基づいた知見を社会実装する取り組みです。行政と医療機関、奈良県立医大に民間企業のマンパワーが加わり、このプロジェクトは進められています。
あやべMBTプロジェクトでは、綾部あんしん登録企業を中心とした「あやべMBTミーティング」が2ヶ月に1回開かれています。無理に売り込むのではなく、買ってもらうことを大切にする企業が集まり、新たな異業種交流会の形としても注目されている存在です。
MBT導入は高齢社会における現代の日本での大きなニーズであることは間違いないですが、課題も多くあります。導入には高齢者との関係づくりが必要であるにも関わらず、訪問するための目的が希薄になりやすい、訪問する人材の確保、交通費や人件費の問題など、まずはMBTの基盤を作成するところから始めることが肝要です。そこで白羽の矢が立ったのが、「置き薬」との連携でした。
竹内薬品株式会社の主力事業である置き薬は、「先用後利(せんようこうり)」という理念をもとに販売されています。置き薬の原型を作った、富山十万石の二代目藩主・前田正甫が提唱した理念で、「病を治すのが先、利益は後で良い」という意味があります。この考えに則り、置き薬の販売システムもお客様に薬をまず預け、その後に定期的に訪問し、使用した分だけの薬代を受け取るというもので、薬箱全体の費用を請求することはありません。先用後利の精神は、『御用聞き』生活支援サービスとの親和性もあり、長年置き薬を通した訪問で培われてきた姿勢が役立てられています。
薬をお届けすることで「身体的健康」は叶ったとしても、それだけでなく、精神的健康、社会的健康も合わせて本当の健康と言えます。先用後利の精神でこの3つの健康をサポートするのに、御用聞きの姿勢はとても重要な役割を持ちます。
高齢者のニーズは幅広くありますが、その中で竹内薬品株式会社の竹内秀介さんが実感として感じているのが、「話し相手が欲しい、話を聞いてほしい」というものです。
「あやべ『御用聞き』生活支援サービスを通し、様々な相談を受けていますが、傾聴ボランティアとしての意味合いも強く感じており、傾聴の気持ちを大切にしています。当社の事業で、地域に役立つことがあるなら貢献したい」という思いで取り組んでいます。
「先用後利」の精神が今に受け継がれ、現代のニーズともマッチしているこの取り組み。民間企業の事業スタイルを活かした社会支援活動は、1つのモデルとして様々な活動に応用できそうです。
あやべMBTプロジェクトについては、SNS等で取組情報が発信されています。検索してみてください。
竹内薬品株式会社
連絡先など詳しくは以下のホームページから。